エッセイ〜親愛なるガラパゴス日本
名刺入れがない。
かなり大規模な展示会だったのだが、そこで名刺入れを落としてしまった。
ないことにはすぐに気がついたが、広い会場を動き回っていたのでどこで落としたかは分からなかった。
やってしまった。整理整頓が苦手な私の名刺ケースは取引先の方の名刺の量で悲鳴を上げている。そんなもん落としたら、ケッコーな問題だ。
主催者事務所に駆け込んだが「まだ届いてない」。やっぱりな、落としたのさっきやもんな。ただ「帰る頃には届いてると思うので、もう一回来てみて」とも。
落胆しながら1時間半のセミナーを受けて、いざ再訪問。なんと無事届いていた。
届けてくれた王子様は警備員さんらしい。あぁ、あの。会場入り口で受付の時に渡されたカードをちゃんと首にかけているか、ものすごい情熱で確認している人たちか。そんなところにまで目を光らせてくれていたなんて。
ちょっとでも煩わしく思ってしまってごめんなさい。本当にありがとう。
手元に帰ってきた名刺ケースは社会人になって初めて買ったもの。一度も買い変えてない。かといって大して思入れもないのだが、これを落としたのは初めてではない。
確か5年くらい前にも一度落とした。その時は1週間くらい行方が分からず、けれども、今回くらい他人の名刺が入っていたわけでもなかったので、特に焦ってもなかった。が、拾ってくれた人が電話をかけてくれ、無事に帰ってきた。
日本はいい国だと思う。今回のこともそうだし、サバ美が生まれてからそう思うことが多くなった。
子供は本当にものをよく落とす。手袋も、新しく買ったおもちゃですら。けれど、必ず誰かが拾ってくれた。
バスに乗った時もそう、入った瞬間にさっと何も言わずに席を立ってくれた。
知り合いでもないので分からないが、そんな親切さをくれる人は、ほとんどが子育てを終えた、もしくはひと段落した人の面影を感じる。ありがとう、と心の底から思う。
若い人は気づいているのかいないのかは分からないが、それはそれで良い。
将来子供が生まれて、私と同じようなアクシデントが起きた時、その時は私が助ければいいのだから。私がされたように。
そうしてまたその人は、同じように別の人を助けて…。そんな連鎖を繰り返せばいいだけ。そうやって未来へと続けばいい。
親愛なる小さな島、ガラパゴス日本さん。
やれ先進国最下位なんて聞くことが多くなった。国民一人当りの生産性だったかな?最下位だって。名刺入れを落とした時に聞いていたセミナーでも言われた。ちょっと悲しい。
けれど、これだけ早くグローバル化が進んで、きっと戸惑ってるだけさ。だって僕ら昔鎖国までしてたくらいだし、ちょっと持ち前の引っ込み思案を発揮してるだけさ。
ガラパゴス諸島みたいに、色々なもの吸収して、前に進めばいい。
このまま、未来へ。
子供の将来が、幸せでありますように。